ダウンビート | 横浜のジャズ喫茶・ダウンビート Official Web Site

down beat Talkダウンビート語らいの場

ジャズをたくさん聴ける場所で働きたくて、大学一年の夏、初めてダウンビートを訪れてから もう10年が過ぎてしまった。 ダウンビートで働いていた時期は、ともかくジャズもレコードも大好きで、 暇な時間があればレコード屋に行き、ジャズのレコードを買っていました。

第4回は、2010年ライブ御礼、元・ダウンビートのカウンター・ガールのCharka Recordsさん(ダウンビートの常連には懐かしい”ふみえちゃん”)のコラムです。

From Charka Records

第4回 by Charka Records

最初は、レコードの扱い方も分からないし、ジャズも全く知らず。
レコードも何を選べば良いのやら・・・。分からないなりに聴いていくと、まずは好きな曲が出来て、その曲が入っている盤を探してかけていくうちに、自然とたくさんのプレイヤーを聴くことになり、だんだん、このプレイヤーがいいなっていうのが出て来る。そして気に入ったプレイヤーの盤は、片っ端から聴いていく・・・という、贅沢な聴き方をして、ジャズもレコードも大好きになりました。

オーディオの違いや、オリジナル盤か廉価盤かという違いだけではなく、ダウンビートで聴くレコードは家で聴くものとは全く違いました。ダウンビートで同じ盤をかけていても、時間帯や、その時のお客さんの雰囲気の違いで、レコードは違うように鳴っていました。

私は、夕方のダウンビートが大好きでした。夕方は、ドルフィーやオーネットがしっくり来ます。
横浜の、野毛の、ダウンビート。ここだけは、エア・ポケットのように切り取られた空間であるように思えました。店の中と外で完全に世界が違う。ダウンビートの中では、時間も、ゆったりと流れます。ジャズのレコードを何十年も鳴らし続けている空間だからこその世界なんだと思います。

ダウンビートという、この場所でずっとレコードを聴いてこれたこと。
これは私にとって、とても貴重な財産になっています。

ダウンビートでバイトしていた時期に聴いたレコードや、出会った人々を通して「私は何をやりたいのだろう?」ということを、考えられるようになりました。

4年間の学生生活のうちの一年間を沖縄に住んでみたり、大学卒業後はレコード屋で働いてみたり、島根に織物の修行に行ったり・・・。そんなこんなで、今に至る訳ですが、今は黄金町の黄金町バザールという所でスタジオを借りて、普段は別の仕事をしながら、仕事が休みの日には糸を紡いだり布を織ったりしています。

織りたい布のイメージは、音楽の好みから来ます。「ドン・チェリーのような布を織りたい」と常々思っています。糸を紡ぐことは、セロニアス・モンクに近いな・・・など。

ダウンビートでバイトしていた時期に、黄金町という町に足を踏み入れたことは二度しかなく、(今考えると、厳密には黄金町ではないのですが)一度は、ジャックアンドベティーに映画を観に行き、映画が始まるまで時間があったので、友達と川沿いに立っていたら、「いくら?」と声をかけられてしまい、慌てたことがあります。

黄金町バザールに入居してみて、思うことは、野毛と黄金町ってこんなに近いのか、ということでした。私も野毛には出入りするものの、黄金町は近付きがたい町でした。そこには、地理的な距離以上の距離が存在しました。

桜木町周辺は、みなとみらいは東横圏、野毛はJR圏、日ノ出町・黄金町は京急圏、と、町のカラーが全然違います。野毛と日ノ出町・黄金町は、もっと交流があればもっと面白くなるのに・・・と思います。

去年、平岡さんが亡くなりましたが、平岡さんの訃報が飛び込んできたのは、黄金町に居た時でした。まっさきに思ったのが、『平岡さんに「黄金町バザールに入居しました」と話したかった・・・、平岡さんと黄金町バザールで何か面白いことをやりたかった・・・』ということでした。
その晩は、黄金町で平岡さん縁のレコードをかけながら、ひたすら泣きました。

平岡さんとは、私がダウンビートでバイトしている時に、自然と話すようになりました。
沖縄に行く前、織物修行にいく前、平岡さんと話したいなあと思っていると、絶妙なタイミングでダウンビートに現れ、私の話を聞いてくれました。連絡先を知っている訳でもなく、偶然会うしか手段はないのですが、いつも絶妙なタイミングで話を聞いてくれるのが不思議でした。黄金町だけは、間に合わなかった・・・、そう思いました。

平岡さんと最後に会ったのは、一昨年の12月、にぎわい座の馬生ハマ寄席でした。にぎわい座で偶然会い、平岡さんの隣の席が空いていたので、平岡さんが隣においで、と誘ってくれて一緒に落語を聴きました。
「また、あんたとは、どこかでヒョイっと会えるだろう」という言葉をかけてくれて別れたのですが、それが最期となってしまいました。

私は今、落語が大好きなのですが、平岡さんがジャズ落語やうま野毛寄席を企画していなければ落語も聴いていないだろうと思います。私は、平岡さんのおかげで、ジャズと落語がつながった。そして、今は織ることや紡ぐことも、ジャズだけではなく、落語ともつながってきています。

ジャズと落語がつながるように、黄金町と野毛も、私の中ではつながっています。
平岡さんがもう少し待っていてくれたら・・・。
平岡さんは、黄金町でどんな遊びを考えてくれただろうか・・・?
到底、平岡さんのように、とはいきませんが、私も私なりに面白いと思うことを黄金町〜野毛ラインでやっていけたら良いのかな・・・と思います。

ダウンビートという、
この場所でずっとレコードを聴いてこれたこと。
これは私にとって、
とても貴重な財産になっています。

Charka Records:
元・ダウンビート カウンターガール。通称”ふみえちゃん” 現在、黄金町エリアマネジメントセンターで仕事の傍ら、織物作業に励んでいる。
黄金町エリアマネジメントセンター

(2010年3月8日 寄稿 )


illustration:迫田 隆幸